イルカの、感染に対する抵抗力やサメによる咬傷からの迅速な治癒力が、ヒトの創傷治療に新たな洞察をもたらす可能性が新しい研究で示唆された。
医学誌「Journal of Investigative Dermatology(研究皮膚科学)」7月21日号に掲載された論文で、米ジョージタウン大学メディカルセンター(ワシントンD.C.)非常勤教授のMichael Zasloff氏は、「イルカの治癒過程に関する報告はまだほとんどなく確認されていない。イルカはなぜ、サメによる咬傷で出血死に至らないのか。なぜ激痛に苦しまないのか。重度の損傷による感染が生じないのはなぜか。ヒトならば同様の損傷は致命的になる」と述べている。
これらの疑問を解決するため、同氏は世界各地のイルカ調教師および海洋生物学者にインタビューを行い、入手可能な研究をレビューした。その結果、同氏は、イルカの感染に対する耐性がその脂肪層と関係する可能性があると結論付けた。イルカの脂肪層には天然の有機ハロゲン化合物(organohalogen compound)が含まれ、抗生物質のように作用し、抗菌特性を持つという。同氏は以前に、カエルと小型のサメの皮膚から抗菌化合物を同定している。
Zasloff氏は「イルカは自身の抗菌化合物を蓄え、損傷発生時にそれを放出する可能性が最も高い。また、身体の元の形状を回復させる方法で治癒する。大きな裂傷を正常に近い外観に修復するには、新たに形成された組織を既存の脂肪細胞、コラーゲン、弾性線維に結合させる能力を必要とする。イルカの治癒は、哺乳類の胎児の子宮内での治癒方法と似ている」という。
同氏はさらに、「独自の潜水メカニズムが血流を抑え、治癒を促進する可能性がある。また、無痛覚は確実に生存するための順応である。今回の研究がヒトに恩恵をもたらす研究を促すことを願っている。動物の創傷治癒に新規の抗菌薬や有望な鎮痛化合物が見つかると考えている」と述べている。