婦人科検査法の概要

婦人科、産科総論

代表的な産婦人科検査法の概要

?婦人科内分泌検査法

1 基礎体温 Basal body temperature(BBT)

基礎体温とは、充分な睡眠時間をとったあとの早朝覚醒時(床から起きあがる前)に婦人体温計
で計った口腔舌下の体温をいう。毎日の基礎体温を記録する用紙を基礎体温表といい、記録した測
定点を結んでできる曲線を基礎体温曲線という。

 1)基礎体温の周期
 正常の規則性排卵周期では、基礎体温は卵胞期には低温相を、黄体期には高温相を示す。黄体期
の高温相は、黄体から分泌される黄体ホルモンが体温中枢(視床下部)に作用して体温をO.4℃上
昇させることによって現れる。

 2)基礎体温曲線

 基礎体温曲線を作成することによって、排卵の有無、黄体機能の推定、妊娠の早期診断が可能である。
基礎体温曲線は、間接的には血中性ステロイドホルモン循環量を反映しており、その曲線パターンから
卵巣ホルモン分泌能を臨床的に推定することが出来る。
正常の規則性排卵周期では、卵胞期には低温相を、黄体期には高温相を示し、2つの相を識別できる曲線を示す。
これを二相性といい、これを基準として基礎体温曲線のパターンが分類されている。
 基礎体温曲線の分類法として、松本の分類がある。松本の分類では、基礎体温型はI型??型に分けら
れている。I??型は二相性を、?型は低温相のみの一相性を示す。I型は正常排卵型で、???
型は黄体機能不全型を示す。?型で月経様出血がある場合は無排卵周期症を、月経がない場合は無
月経を疑い、原発性か続発性かを鑑別するために更に精査が必要とされる。

2 ホルモン測定

下記のホルモンの血中濃度の測定が行われることが多い。測定法には免疫学的微量測定法である
ラジオイムノアッセイ(radioi?munoassay,RIA)やエライザ(enzyme-linked immunosorbentassay,ELISA)法等が用いられる。

1)分類

?視床下部ホルモン(LH-RH)
?下垂体ホルモン
a.卵胞刺激ホルモン(FSH)
b.黄体化ホルモン(LH)
c.乳汁分泌ホルモン(プロラクチン:PRL)

?卵巣由来性ステロイドホルモン
a、卵胞ホルモン(エストロゲン):エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)
b.黄体ホルモン作用物質(ゲスターゲン):プロゲンステロン、17一ハイドロオキシプロゲステロン
c.アンドロゲン:デヒドロエピアンドロステロン(DHA)、アンドロステジオン、テストステロン

?胎盤ホルモン
a.絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)
b.胎盤性乳汁分泌ホルモン(hPL)

2)ホルモン測定結果の臨床的意義

(1)血中FSH値および血中LH値
血中FSH値は、およそ30mIU/ml以上は高ゴナドトロピン、5mIU/ml以下は低ゴナドト
ロピンである。高ゴナドトロピン状態は閉経婦人では生理的状態であるが、卵巣には卵胞が存
在しないとみなされる。無排卵、無月経でも正常なゴナドトロピン性の場合には、排卵後の
LHの放出障害を示すもので、排卵障害は視床下部性であると診断される。
低ゴナドトロピンは、原因が中枢性であることを示す。すなわち視床下部あるいは下垂体の
障害によるもので、鑑別はLH-RHテストの結果で判定する。
血中LH値の変動幅はFSHに比べて大きいが、基礎値が比較的高値(20mIU< )でLH: FSH比が>2.5:1を示すのは多嚢胞卵巣症候群に特徴的であるとされている。

(2)血申プロラクチン(PRL)値
起床後から午後4時頃までは比較的低値を示し、入眠後から覚醒直前までは比較的高値を示
す日内変動がある。高プロラクチン血症は排卵障害と密接に関係するので高値(15ng/ml以
上)を示す場合には、再検査のうえでプロラクチン産生種瘍の存在及び服薬の有無を問診する。

(3)血中エストラジオール値
卵胞の発育過程の進行度を推測するもっともよい指標とされている。排卵後のピーク値は
300?400pg/mlである。

(4)血中プロゲスデロン値
黄体のステロイド産生不足が起こると、子宮内膜の分泌性変化が不十分なために着床障害の
原因となる。従って黄体期中期の血中プロゲステロン値が5ng/ml以下であるときは、黄体
機能不全を疑うとされている。

(5)血中テストステロン値
テストステロンの高値は、副腎皮質か卵巣か、あるいは両臓器での産生過剰のいずれかによ
るもので、男性化徴候(無月経または月経不順、多毛、音声の低音化、陰核の肥大、座瘡の増
加など)を伴う排卵障害例で測定を行う。

3 その他の検査法

1)膣細胞診 vaginal smear
膣粘膜上皮には、エストロゲンおよびプロゲステロンに感受性をもつ組織が存在する。エストロ
ゲンの膣上皮細胞に対する作用は扁平上皮の成熟変化で、好酸性表皮細胞の増加として現れる。こ
れに対してプロゲステロンの作用は好塩基性の中層細胞の増加となって現れる。この様な変化を利
用して膣壁細抱の塗抹標本(膣の側壁から綿球を用いて載物ガラス上に採取細胞を塗抹する)の内
分泌学的細胞診は、簡便な内分泌検査法として利用される。

2)頸管粘液検査 eva!uation of cervical mucus
頸管腺から頸管粘液が分泌される。粘液の性状は卵巣周期に伴う血中性ホルモン濃度の変化を反
映するので、卵巣のホルモン分泌機能の臨床的な指標に用いられる。
エストロゲンの作用で粘液量は次第に増加し、排卵前期には0.3ml以上になり、水溶性透明とな
り、牽糸性も増し、10?以上を示す。微温下に乾固させるとシダ葉状の結晶形成に変化する。卵
胞からのエストロゲン分泌量の間接的な指標として用いられている。なお、排卵後は黄体から分泌
されるプロゲステロン作用が優位になるために分泌量は減少し、吸引不能となる。

3)子宮内膜組織診 endometrial biopsy
子宮内膜は、エストロゲンとプロゲステロンの作用を受けて増殖、発育し、およそ4週間の周期
で再生、剥離を反復する。このようにホルモンの作用によって予宮粘膜組織の組織構成要素は変化
することから、子宮内膜日付診が行われる。すなわち排卵後の基礎体温曲線上の経過日数とその間
に作用したホルモン効果との同調性を子宮内膜組織像にみられる所見から評価する方法である。日
付と組織像とが一致しない両者間のズレは不妊の原因となると考えられている。

?不妊検査法

1 卵管疎通性検査法
女性の不妊症の中では卵管因字によるものが約40%と最も多い。それだけに卵管疎通検査は非常
に重要である。検査は原則として月経終了後排卵までの間に行う。

1)卵管通気法 tubal insufflation,Rubin test
Rubin testは、侵襲が少なく、手技も簡単で、手軽に外来でできることからスクリーニング
テストとして日常的にはよく用いられている。方法は、炭酸ガスを一定の圧力(200?Hg程度)
で外子宮口より注入し、内圧の変動をキモグラフで記録する。同時に腹壁に聴診器を当て
て、卵管采からのガスの放出音を聴く。

2)子宮卵管造影 hysterosalpingography
子宮卵管造影ぽ、子宮および卵管の内腔の状態を知る最も有効な検査法である。卵管の疎通性検
査や閉塞部分の診断に広く用いられている。予宮卵管造影で卵管に異常所晃が認められる場合は、
腹腔鏡検査を行い、正確な診断を行う。

3)卵管疎水法 hydrotubation
生理的食塩水を外子宮口から静かに注入する。卵管の疎通性は注入時の抵抗、注入量によって判
定する。卵管通気法と同様に手軽な検査法であるが、障害部位の判定が出来ない点が欠点である。

4)卵管通色素法 hydrcchromotubation
indigocarmin液を用いて卵管通水を行う方法である。実際には腹腔鏡検査時に卵管の疎通性を
検査するのに用いられている。

2 排卵時期の診断法

排卵時期を診断することは、Huhner test(性交後試験)の時期や人工授精の時期を決める上で
重要である。

1)自覚症状
中間痛(排卵痛)、中間期出血、帯下感など、いわゆる排卵期の症状がはっきりしている場合は、
排卵時期をかなり正確に知ることができる。

2)基礎体温(BBT)測定
月経が一定している場合は、排卵時期もほぼ一定している。過去のBBTから排卵日を計算し、
次回の排卵日を推定する。BBTでは体温上昇の直前を排卵日とする。

3)頸管粘液検査
頸管粘液はエストロゲン分泌に一致して排卵の一日前ぐらいに量がピークに達し、性状も大きく
変化する。頸管粘液O.4ml以上、牽糸性1O?以上・緒晶形成(+++)の場合は排卵が近いと判定
する。ただし頸管粘液の分泌パターンには個人差があるので、あらかじめ排卵期の頸管粘液分泌動
態を調べておくと排卵日を予測するのに便利である。

4)膣スメア
膣上皮細胞は、月経周期により変化する。血中エストロゲンが増量し、排卵が近づくと角化した
表皮細胞が多数出現する。膣スメアの表皮細胞の比率(smear index)を測定することにより、排
卵日を推定する。通常、この検査は頸管粘液検査で排卵日を予測できない場合、すなわち頸管粘液
分泌不全の時に用いる。

5)超音波断層法 ultrasonography
排卵直前になると卵胞の直径は20?25mmに増大する。超音波を用いて経時的に卵胞の発育を計
測し、排卵時期を予測する。月経が不順で、しかも頸管粘液分泌が悪く、排卵日の予測が困難な場
合に用いられる。

6)ホルモン測定
尿中または血中LHを測定し、排卵時期を診断する。尿中LHでは・尿中LHサージが始まって
から約30時間で排卵し、血中エストラジオールは排卵の24時間前ぐらいにピークに達し、排卵直後
にはやや低下する。

3 精液検査

精液検査は、男性不妊症の診断に用いられる。精子濃度、精子運動性などは、禁欲期間や体調に
よって変動することから、精液検査は一定期間をおいて2?3回検査してから判定することが勧め
られている。

1)精液の肉眼的所見・量・精子数
正常な精液は、白色混濁している。赤色を呈する場合は、副生殖器の炎症を疑う。
正常男子の1回射精量は2?5mlである。1ml以下の場合を精液減少症という。また、精子数は
白血球算定用メランジュールを用いて精子濃度を測定する。精子数20×1000000以上を正常、20×
1000000/ml以下を乏精子症、精子が全く認められない場合を無精子症という。

2)精子運動性・精子奇形率
液化精子の1滴をスライドグラスの上におき、カバーグラスをかけ、前進運動精子の百分率を調
べる。運動率50%以上を正常、50%以下を精子無力症、精子運動を認めないものを精子死滅症とい
う。
精子の奇形について明確な診断基準がないために、奇形率50%以下を正常、50%以上を奇形精子
症とすることが多い。

4 精子頸管粘液適合試験

膣内に射精された精子は、頸管粘液中を通過し、卵管膨大部に達する。もし頸管粘液中の通過障
害があれば不妊の原因になる。従って精子と頸管粘液の適合性検査は不妊症の診断に用いられる。

1)性交後試験 post coital test,Huhner test
Huhner、testは、不妊検査として日常よく行われている検査の一つである。推定排卵日に性交
を行い精子の頸管内通過性を調べる検査である。
方法はBBTおよび頸管粘液検査から排卵日を推定し、2日以上の禁欲期間をおいて性交を行
わせる。性交後2?3時問以内に頸管粘液を採取し、強拡大で検鏡し、1視野内の全精子数、運動
精子数を数える。判定は統一されたものはないようであるが、一般的には[運動精子数5個/1視
野]を正常とし、[運動精子数1?5個/1視野]を不良とし、[運動精子数0個/1視野〕を陰性
とする。

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