友人や姉妹から提供された卵子と夫の精子を体外受精させて妻の子宮に戻す治療を、全国の不妊クリニックでつくる「日本生殖補助医療標準化機関」(JISART)の倫理委員会が認める答申を出していたことが28日わかった。西日本にある2医療機関が申請しているが、厚生労働省審議会の報告書が示した「提供者の匿名性」の条件は満たしていない。実施されれば、一定の手続きを踏んだうえで行う国内初のケースとなる。
第三者からの卵子提供をめぐっては、諏訪マタニティークリニック(長野県)の根津八紘(やひろ)院長が98年、妹からの卵子提供による体外受精と出産を公表した。この件や代理出産の公表をきっかけに、厚労省審議会の生殖補助医療部会が法制化を前提に検討を始め、03年、卵子提供者は匿名とし、姉妹間は認めないとの報告書をまとめた。日本産科婦人科学会の倫理審議会も同年、匿名の場合に限り提供を認めると答申した。
JISARTは、不妊治療に積極的なクリニックの代表が4年前に設立。現在、20施設が参加し、国内の体外受精の半数近くを実施している。倫理委員会は生命倫理の専門家や弁護士らで構成され、委員長は龍谷大法科大学院の金城清子教授。2例の実施は3月下旬に答申され、6月の理事会をへて正式に認められる。患者はいずれも卵子を提供されなければ妊娠できないという。
厚労省の報告書が匿名を条件としたのは、例えば姉妹間の提供だと、子どもの「遺伝上の親」が近くにいて親子関係が複雑化する▽周囲から「なぜ卵子を提供してあげないのか」などと圧力を受ける――などの可能性が指摘されたためだ。
JISARTの倫理委員会の答申は匿名性の条件に反するが、「現段階では匿名の第三者から卵子の提供を受けることは難しい」として了承されたという。
JISARTの理事の一人は「(法制化を)『もう待てない』との思いだが、生殖医療のあり方を検討している日本学術会議の結論が出る前に既成事実を作りたい思いもある」と話している。