体外受精など不妊治療を受けた女性は難治性の心不全リスクが上昇する可能性

体外受精などの不妊治療を受けた女性は、自然妊娠した女性に比べて、妊娠期や産褥期に突然発症する「周産期心筋症」と呼ばれる難治性の心不全を発症するリスクが5倍に上る可能性があることが、ハノーバー医科大学(ドイツ)のTobias Pfeffer氏らの研究から明らかになった。

同氏らは、不妊治療を受けている女性は、心不全症状が現れたら直ちに医師の診察を受けるようにと助言している。研究の詳細は、欧州心臓病学会(ESC)心不全会議(5月25〜28日、ギリシャ・アテネ)で発表された。

この研究は、周産期心筋症の女性患者111人を対象に、不妊治療の有無と周産期心筋症の発症リスクとの関連について調べたもの。質問紙調査への回答から、女性の妊孕性と不妊治療に関する情報を収集した。

周産期心筋症は、妊婦の約1,000人に1人の割合で発症し、母子ともに生命に危険を及ぼす難治性の心不全だ。

息切れや脚のむくみ、夜間にトイレに行きたくて目が覚めてしまうといった症状は、周産期心筋症の徴候である可能性がある。

ただ、Pfeffer氏によれば、妊娠中に現れる息切れや動悸、脚のむくみといった症状と心不全症状を区別することは非常に難しいという。

同氏は「今回の研究結果から、不妊治療を受けた女性は、周産期心筋症リスクが5倍以上に高まることが示された。
周産期心筋症は診断が遅れやすい上に、予後に直接影響することも多い」と述べ、「女性は、妊娠中のこれらの症状を軽視すべきではない場合があることを認識しておく必要がある」と強調している。

一方、責任研究者で同大学分子心臓病学教授のDenise Hilfiker-Kleiner氏は「婦人科医や不妊治療専門医は、不妊治療で妊娠した女性に対し、周産期心筋症を除外診断するために、分娩後または分娩直前に心エコーを含めた心臓検査を受けるよう促すべきだ」と述べている。

また、不妊治療を何度も繰り返して受けるケースもあるが、Hilfiker-Kleiner氏は「流産や死産が周産期心筋症の発症につながることもある」と指摘。

「心臓への負荷や機能障害の徴候がみられる女性は、不妊治療を続けると周産期心筋症リスクが高まることも知っておく必要がある」と説明している。

さらに、不妊治療を受ける女性は一般に年齢が高く、分娩は帝王切開になることが多いが、Hilfiker-Kleiner氏によれば、これら2つの要因も周産期心筋症のリスク因子であるほか、不妊治療による多胎妊娠もリスクを高める可能性があるとしている。

研究グループの一員で同大学のManuel List氏によれば、現在、不妊や周産期心筋症に関与する遺伝子変異などに関する研究に取り組んでいるという。

また、同氏は「これまでのところ、不妊治療の一環であるホルモン療法が周産期心筋症リスクの増加につながることを示した明確なエビデンスはない」としている。

なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。

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