マンモグラフィによる死亡率減少効果は小さい

 定期的なマンモグラフィ(乳房X線検査)の受診は、乳癌(がん)の死亡率低下の約3分の1に寄与しているにすぎないことが、ノルウェーの大規模な乳癌スクリーニングプログラムのデータ分析によって示された。残りの3分の2は、癌についての啓発や治療の向上などの因子によるものと考えられると、研究著者らは述べている。

 米医学誌「New England Journal of Medicine」9月23日号に掲載された今回の分析は、マンモグラフィのリスクと有益性について新たな疑問を投げかけるものである。研究著者であるノルウェー癌登録機構(オスロ)のMette Kalager博士は、女性はその有益性が期待するほどではないことを知った上で、過剰診断や偽陰性・偽陽性など検査結果の害についても考慮に入れて検討する必要があると指摘している。

 昨年(2009年)11月、米国予防医学作業部会(USPSTF)が、マンモグラフィによるスクリーニングは50歳から1年おきに受診すればよいとのガイドラインを発行し、乳癌専門家らの間に大きな議論を呼んだ。一方、米国癌協会(ACS)をはじめとする各団体は、現在も健康な女性に40歳から年1回のマンモグラフィ受診を勧めている。

 ノルウェーの乳癌スクリーニングプログラムは1996年に開始、9年をかけて郡単位での登録が勧められ、2005年以降は50〜69歳の女性全員が2年ごとにマンモグラフィを受けている。今回の研究では、4万人強のノルウェー人女性を平均2.2年間追跡。スクリーニングプログラムを実施している郡としていない郡に在住する2群、同じ郡にスクリーニングプログラム実施前に在住していた2群(スクリーニング群と非スクリーニング群)、計4群の死亡率を比較した。

 その結果、スクリーニングプログラム実施群と対照群(実施前のスクリーニング群)の乳癌死亡率の差は28%であったのに対し、非スクリーニングプログラム実施群と対照群(実施前の非スクリーニング群)の差は18%であった。スクリーニング群における相対的な減少率は10%であり、またスクリーニングのみの死亡率減少への寄与度は全体の3分の1に過ぎず、「これまで考えられていたよりも大幅に低い数値である」とKalager氏は述べている。

 米国放射線医学会(ACR)乳房画像委員会のメンバーDaniel B. Kopans博士らは、「マンモグラフィが完璧なものとは誰も主張していない。しかし1990年代にマンモグラフィを定期的に行うようになって以来、乳癌による死亡は30%低下した。これは大きな成果だ」と述べ、今回の研究の追跡期間(平均2.2年)が短く、スクリーニングの効果を評価するには十分ではないと指摘している。これに対し、別の専門家は「治療が向上し、啓発が進むことにより、マンモグラフィの重要性はこれまでよりも低いものとなっている可能性がある」と指摘。米国ではこの問題に関する議論が再燃化している。

グルコサミン、コンドロイチンには関節痛緩和の効果なし

 股関節や膝の変形性関節症(骨関節炎:OA)の痛みを緩和する目的で多くの人がグルコサミンおよびコンドロイチンのサプリメント(健康補助食品)を利用しているが、このようなサプリメントに治癒効果があるとのエビデンス(科学的証拠)は認められないことが、大規模研究の新たな分析によって示され、英国医師会誌「BMJ」オンライン版に9月16日掲載された。

 これまでにもいくつか今回と同様の報告がされており、研究を率いたスイス、ベルン大学社会・予防医学研究所のPeter Juni博士は「評価した2つのサプリメントのいずれも、患者の疼痛緩和という点で、臨床的に意義のある有益性は認められなかった」と述べている。この 10年間、医師によるグルコサミン、コンドロイチンの処方や、世界中で何百万人という人が市販薬(OTC)としてこれらサプリメントを購入しており、 2008年の世界でのグルコサミンサプリメントの売り上げはほぼ20億ドル(約1,700億円)に達し、2003年より60%増加している。

 今回の研究では、3,800人強の膝または股関節の関節炎患者を対象とした10件の無作為化臨床試験の結果を分析。いずれの試験もサプリメント使用者群と非使用の対照群を比較したものであり、グルコサミン、コンドロイチンのいずれかまたは両方を使用する患者の疼痛レベルの変化をプラセボ(偽薬)との比較や互いの比較により検討したものであった。全データの検討の結果、コンドロイチンおよびグルコサミンには、関節痛または関節腔狭小化に臨床的に意義のある効果はないことが判明した。

 ただしJuni氏は、もし患者がすでにこのようなサプリメントを使用しており、実際に効果を感じている場合には(疾患の自然経過やプラセボ効果によるものである可能性が高いが)、有害であるとのエビデンスはないことから、積極的に使用を止める理由はないと述べている。

 米マイアミ大学ミラー医学部のAndrew Scherman博士も、このようなサプリメントが役立っていると報告している患者がいることを認めており、使用しても(費用がかかる以外に)害はないだろうとする一方で、サプリメントの製造元による表示内容については、大規模研究でその有効性が認められない限り、見直して精査する必要があると指摘している。「現時点では有効性を認める研究は存在しない」と同氏は述べている。

妊娠中の魚油サプリ摂取は産後うつ病や子の認知力向上に効果なし

ドコサヘキサエン酸(DHA)を含有する魚油サプリメントを妊娠女性が摂取しても、産後うつ病の減少や、生れてくる子の思考(認知)力および言語の発達向上などの効果はみられないとする研究が、米国医師会誌「JAMA」10月20日号に掲載された。

 オーストラリア、女性・小児健康研究所(Women’s and Children’s Health Research Institute、アデレード)のMaria Makrides氏らによる今回の研究では、妊娠21週未満の女性2,399人を、DHA 800mgを含有する魚油サプリメントを毎日摂取する群と、DHAを含有しない植物油カプセルを摂取する群に無作為に割り付けた。被験者は出産まで摂取を継続した。エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)およびベイリー乳幼児発達検査(BSID)を用いて、母親のうつレベルおよび出生児の認知・言語の発達をそれぞれ評価した。

 出産後6カ月間の産後うつ病の比率はDHA群では9.67%、非DHA群では11.19%で、両群間に有意差はみられなかった。新たなうつ病の発症数にも群間差はなかった。また、生後18カ月の時点で、母親がDHAを摂取した幼児としていない幼児の間に発達スコアの差はみられず、運動発達や社会情緒的行動などのスコアにも差はみられなかったという。なお、DHA群では新生児集中治療室(NICU)に入院した乳児が、対照群に比較して有意に少なかった。これはDHA群の早産が少なかったことによるものと考えられる。

 同誌付随論説の著者である米ハーバード大学医学部(ボストン)准教授のEmily Oken博士は、DHA群での早産率の低さは大きなベネフィット(便益)であると述べている。また、今回の研究で用いたベイリー乳幼児発達検査は、就学前後にならないと表面化してこない発達の欠陥を予測するには不十分であると指摘。魚油サプリメントの安全性を強調するとともに、妊娠女性は水銀含有量が少なくDHA含有量が多い魚、あるいはサプリメントにより1日200mgのDHAを摂取することを推奨している。一方、米マイアミ大学ミラー医学部のGene Burkett博士は、水銀含有量の少ない魚を食べることを勧めており、サプリメントは魚の代用とはならないとしている。

 健康食品業界団体Council for Responsible NutritionのDuffy MacKay氏はこの知見に対し、「今回の研究では、妊娠初期の母親のDHAの摂取状態や、うつ病の評価を実施した時期がわからない。また、幼児を評価した時点でのDHAの摂取状況もわからない」と指摘し、明確な結論を導くことはできないと述べている。

若年女性の更年期様症状はうつ病リスクが高い

 若い女性に原発性卵巣機能不全(POI)と呼ばれる閉経期に似た症状がみられる場合には、うつ病の評価を行う必要のあることが、新しい研究で示された。

 POIの女性は正常な量の生殖ホルモンが産生されなくなり、顔面紅潮(hot flash)や不妊などの症状がみられるほか、うつ病リスクが増大する。米国立衛生研究所(NIH)の研究グループによると、POIは早ければ20代で発症することがあるという。

 今回の研究では、POIの女性174人を対象に評価を行った結果、67%が現在うつ病であるか、これまでに少なくとも1回は臨床的にうつ病と診断されていることが判明。その比率は一般女性の2倍以上であったという。この知見は、医学誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism(臨床内分泌学&代謝学)」オンライン版に11月3日掲載され、印刷版にも近く掲載される予定。

 しかし、POIの女性にうつ病が多くみられる理由は未だ明らかにされていない。POI患者の多くはその診断を聞いたことが誘因となってうつ病になるのではないかとの見解もあるが、今回の研究では68%以上の女性が診断を受ける前にうつ病になっており、この理論の裏付けとはならなかった。

 研究著者の1人である米国立小児保健発育研究所(NICHD)のLawrence M. Nelson博士は、今回の研究から医師がすべきことは明らかで、「POIはうつ病との関連が強いことから、POIと診断された女性にはもれなく徹底的なうつ病評価を実施する必要がある」と述べるとともに、「単純にうつ症状はないかと患者に尋ねるだけでは不十分。プライマリケア医は治療あるいは専門医のさらなる評価が必要かどうか、診断的スクリーニング検査を行って評価する必要がある」と付け加えている。

体外受精「お墨付きではない」 ノーベル賞選考委員長

 【ストックホルム=竹石涼子】ノーベル医学生理学賞選考委員会のクラス・シャッレ委員長は7日、朝日新聞の単独インタビューに応じた。体外受精技術の開発に対する今回の授賞について、「不妊治療に対する功績を純粋に評価した」としたうえで、「議論するべき倫理的な問題は今もあり、お墨付きを与えたというわけではない」と慎重な姿勢を示した。

 体外受精技術を開発し、医学生理学賞を受賞する英ケンブリッジ大名誉教授のロバート・エドワーズさんについて、「基礎医学の研究を進めるだけでなく、実際の治療を可能にするために自ら医師を探して協力を求めるなど、実用的な治療法の開発における功績は大きい」と評価した。

 一方で、体外受精が開いた新しい医療が不妊治療以外の分野にまで応用されていると指摘。「気に入った容姿や知能や性別などを選ぶ産みわけに使われるなど、倫理的な側面も大きくなっている。新しい技術が生まれるたびに社会として、受け入れるべきかどうか、常に議論していくべきだ」と語った。

 7日の記念講演会には、エドワーズさんとともに世界初の体外受精児を誕生させた医師のステプトーさん(故人)の家族も招かれ、「生きていたら彼も受賞したかもしれない」との声も聞かれた。