要旨
精子は卵子と融合する前に、先体反応と呼ばれるエキソサイトーシス(開口放出)を起こす必要がある。先体反応にはカルシウムイオン(Ca2+)が不可欠であるが、その分子メカニズムは未解明である。ファーリン(ferlin)は、複数のCa2+結合性C2ドメインを持つ単回膜貫通型タンパク質であり、哺乳類にはディスファーリン(DYSF)、オトファーリン(OTOF)、マイオファーリン(MYOF)、Fer-1-like 4(FER1L4)、FER1L5、FER1L6の6種類のファーリンが存在する。これまでにDYSF、OTOF、MYOFのノックアウトマウスが作製されており、それぞれ筋ジストロフィー(DYSF)、難聴(OTOF)、筋形成異常(MYOF)といった膜融合に関わる障害を示している。本研究では、Fer1l4、Fer1l5、Fer1l6の変異マウスを作製し、その結果、雄の生殖能にはFer1l5のみが必要であることを明らかにした。Fer1l5変異精子は雌の生殖管内を移動して卵子に到達することはできたが、先体反応は起こらなかった。Ca2+イオノフォアを用いても、Fer1l5変異精子において先体反応を誘起することはできなかった。これらの結果は、FER1L5がCa2+と先体反応とをつなぐ「ミッシングリンク(失われた環)」であることを示唆している。