毎日新聞によると
「早発閉経」の患者から卵巣を摘出し、その中の卵子のもとになる細胞を卵子に成熟させる方法で、日本人患者1人が世界で初めて出産したと、聖マリアンナ医大など日米のチームが30日付の米科学アカデミー紀要で発表した。臨床研究として実施した。早発閉経患者の妊娠への道を開く治療法として注目される。
研究で用いた卵子のもとになる細胞は「原始卵胞」。女性の卵巣には、思春期に約50万個の原始卵胞があり、毎月成熟した1個が排卵される。閉経時は数千個に減る。早発閉経は、卵巣機能の低下によって40歳未満で排卵が止まり、月経がなくなる病気で、女性の約1%が発症し、国内の患者数は推計10万人に上る。
聖マリアンナ医大の河村和弘准教授(産婦人科学)らのチームは、20代後半〜40代前半の早発閉経患者27人の卵巣を腹腔鏡手術で取り出し、液体窒素(氷点下196度)で急速冷凍して保存。そのうち原始卵胞が残っていた13人について、解凍した卵巣の切片を2日間培養した。成熟前の原始卵胞は休眠状態にあり、チームは原始卵胞の目覚めを促す物質を加えた培養液を使った。
培養後、卵子の成熟に適した卵管付近に移植し、数週間〜約1年後に5人から成熟した卵子を採取できた。体外受精の一つ、顕微授精で受精卵を作り、子宮へ戻した3人中2人が妊娠、うち1人が男児を出産した。出産した女性は29歳で卵巣を摘出、出産時は31歳だった。赤ちゃんや胎盤に異常は見つかっていない。
早発閉経は不妊治療を受けても妊娠が難しいことが多く、卵子の提供を受ける不妊治療に望みを託す患者は多い。日本でも、2008年から不妊治療クリニックのグループが早発閉経などの患者を対象に提供卵子による不妊治療を始め、今春にはボランティアからの卵子提供をあっせんする事業を民間団体が始めた。だが、現状では提供を受けられる患者は少なく、実施要件などの公的ルールがないなど課題も多い。
今回の聖マリアンナ医大などの成果は、自分自身の卵子で妊娠を望む患者の新たな希望となる。ただし、卵巣を摘出した27人のうち卵子を得られたのは5人、出産は1人と、成功率は高くない。過大な期待を防ぐため、対象患者を見極める手法の確立が求められる。
そもそも閉経から時間がたつほど卵巣内の原始卵胞が減り、この方法でも妊娠は難しくなる。また、卵巣を取り出し、人為的に卵子の成熟を促すことが、子どもの発育に影響を及ぼさないか、長期的な調査が必要だろう。
チームは論文で、加齢で妊娠できなくなった女性にも、この手法を応用できるとする。その場合も、高齢妊娠・出産のリスクは消えない。対象の拡大には慎重な議論が求められる。