大都市圏の浄水場の水から少なくとも25種類の医薬品が検出され、一部は飲用水にも残留していることが、厚生労働省の調査で分かった。環境省の研究班も、利根川、淀川で、医薬品50〜60種類を確認した。研究者らは、飲用水への混入はごく微量で、人の健康に直ちに影響はないとしながら、生態系への影響を懸念している。国内で飲用水への医薬品残留が明らかになるのは初めて。厚労省はさらに3年かけて、詳しく調査する。
医薬品は、人や家畜から下水を通して環境中に排泄(はいせつ)され、医療機関の排水からも流出している。
厚労省水道課や国立保健医療科学院などは06年2月と今年1月に、関東、関西地方の7浄水場の水で、約60種類の医薬品成分を対象に残留の実態を調べた。この結果、各浄水場から、抗生物質、X線造影剤、抗アレルギー剤など、あわせて25種類が検出された。浄水処理の過程で、残留濃度は下がったが、3浄水場では、抗高脂血症剤、解熱鎮痛剤、抗てんかん剤の3種類が、飲用水にも残留していた。残留濃度は6〜30ppt(1pptは1兆分の1)で、単一なら、体重50キロの成人が70年飲み続けても、健康への影響はまず心配ない値だった。ただ、大半が、欧州連合(EU)が環境への影響評価を義務付けている10pptを超えていた。
厚労省は、現時点では「直ちに対応が必要な濃度ではない」(水道水質管理室)としている。だが、国内で流通している医薬品成分は約2800種類あり、今後も3年計画で、医薬品の対象、時期、地域を広げて調べる。国立保健医療科学院の国包(くにかね)章一水道工学部長は「人への急性毒性は心配ないが、長期的影響、生態系への影響を解明する必要がある」という。
一方、環境省の研究班(班長、田中宏明・京大教授)は05年から今年11月まで4回調査し、利根川と淀川の下水処理場の放流水や支流から、胃腸薬、抗精神病薬などそれぞれ54種類と63種類の医薬品を検出。最高で2000pptの濃度だった。
これまでに、環境省研究班などの実験から、医薬品による環境汚染で、生物が成長、増殖を阻害される危険性が確認されている。微生物が薬剤への抵抗力を獲得する可能性も指摘されている。
米国は98年、EUも06年に新薬の開発や販売申請で、環境への影響評価も行うことを指針で義務付けている。
厚労省も、新薬開発で環境影響評価が必要か、検討を始める。環境省は生態系への影響がないか調べるほか、国交省も河川などで残留の実態を調べる。すでに環境省の研究班は、オゾンや紫外線を使い、浄水場で大半の医薬品を9割以上、除去、分解できる技術を開発しており、実用化に向け検証中だ。