抗うつ剤で出生異常リスクが微増

ウォールストリートジャーナルの記事から引用
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一部の抗うつ剤を服用する妊婦は服用しない妊婦と比べ新生児の出生異常のリスクがやや高まることが8日に英医学誌BMJに掲載された大規模な調査結果で明らかになった。
 この調査は、妊娠の前月と妊娠の第1期(最初の3カ月)に服用した抗うつ剤「プロザック」(一般名:フルオキセチン)と「パキシル」(一般名:パロキセチン)と一部の出生異常との関連性を突き止めた。
 ただ、この関連性は別の抗うつ剤の「ゾロフト」(一般名:セルトラリン)、「セレクサ」(一般名:シタロプラム)、「レキサプロ」(一般名:エスシタロプラム)では認められなかった。
 これらはすべて、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)に分類される最も一般的な抗うつ剤。SSRIが胎児の神経管欠損症、心奇形、その他新生児のまれな障害を引き起こす可能性については何年も議論されてきた。これまでの複数の試験では相反する結論が示されている。
 米食品医薬品局(FDA)は2005年に、パキシルが出生異常、特に心臓欠陥のリスクを高める可能性があると警告している。
 先月発表された別の調査結果は、抗うつ剤を妊娠第3期(最後の3カ月)に使用すると重篤な呼吸障害を特徴とする新生児持続性肺高血圧症(PPHN)のリスクが高まる可能性を示唆した。ただその確率は過去に考えられてたより小さかった。
 この調査は、米疾病対策センター(CDC)が主導し、過去の臨床試験の結果と、30以上の主な出生異常のカテゴリーを含む米国の調査データを合わせ、米国とカナダの研究者チームが解析したもの。対象となったのは1997年から2009年に生まれた新生児。
 研究者は、「プロザック」と心臓壁の欠陥や頭蓋骨癒合症の発生の関連性を突き止めた。また、「パキシル」に関連しては、心臓欠陥、無脳症や腹壁の欠陥など5人に出生異常が発生していたことが分かった。
 ただ絶対リスクは小さい。CDCによると、パキシルを服用した母親から生まれた無脳症の子供は1万人に7人で、服用していない母親の場合は2人だった。また、ある心臓の異常は服用した母親の場合は24人、服用していない母親の場合は10人だった。新生児に何らかの異常が見つかる確率は約3%だ。

「うつ百万人」陰に新薬?販売高と患者数比例

うつ病患者が100万人を超え、この10年間で2・4倍に急増している。不況などの影響はもちろんだが、新規抗うつ薬の登場との関係を指摘する声も強い。安易な診断や処方を見直す動きも出つつある。

 東京の大手事務機器メーカーでは、約1万2000人いる従業員中、心の病による年間の休職者が70人(0・6%)を超える。2か月以上の長期休職者も30人を超えた。多くがうつ病との診断で、10年前までは年間数人だったのが、2000年を境に急増した。

 この会社の産業医は、「『うつ病は無理に励まさず、休ませるのが良い』との啓発キャンペーンの影響が大きい」と話す。うつ病への対処としては正しいが、「以前なら上司や同僚が励まして復職させたタイプにも、何も言えなくなった。性格的な問題で適応できない場合でも、うつ病と診断されてしまう」と、嘆く。

 国の調査では、うつ病など気分障害の患者は、2000年代に入り急激に増えており、一概に不況だけの影響とは言えそうにない。

 患者急増との関係が指摘されているのが、新規抗うつ薬「SSRI」だ。年間販売高が170億円台だった抗うつ薬市場は、1999年にSSRIが登場してから急伸。2007年には900億円を超えた。

 パナソニック健康保険組合予防医療部の冨高辰一郎部長(精神科医)によると、欧米でも、この薬が発売された80年代後半から90年代初めにかけ、患者の増加がみられた。

 冨高部長は「SSRIが発売されたのに伴い、製薬企業による医師向けの講演会やインターネット、テレビCMなどのうつ病啓発キャンペーンが盛んになった。精神科受診の抵抗感が減った一方、一時的な気分の落ち込みまで、『病気ではないか』と思う人が増えた」と話す。

 田島治・杏林大教授が、学生にテレビCMを見せた研究では、見なかった学生の倍の6割が「気分の落ち込みが続いたら積極的な治療が必要」と答え、CMの影響をうかがわせた。

 ◆安易な投薬…薬なしで回復の例も◆

 うつ病は一般的に、きまじめで責任感が強い人が陥りやすいとされる。自殺に結びつくこともあり、早期発見・治療は自殺対策の柱のひとつにもなっている。

 ところが近年は、「自分より他人を責める」「職場以外では元気」など、様々なタイプもうつ病に含まれるようになった。検査数値で測れる身体疾患と違い、うつ病の診断は難しい。このため、「抑うつ気分」などの症状が一定数以上あれば要件を満たす診断基準が普及した。「なぜそうなったか」は問われず、性格や日常的な悩みによる落ち込みでも診断され、かえって混乱を招いた面がある。

 田島教授が行った精神科診療所の医師に対する調査では、約8割の医師が、うつ病の診断が広がり過ぎていることに懸念を示した。

 安易な投薬を懸念する声もある。抗うつ薬は、うつ病治療の柱とされているが、宮岡等・北里大教授は「薬なしでも自然に回復するうつ病も多い」と話す。

 海外では、軽症には薬物療法ではなく、カウンセリングや運動などを最初に勧める治療指針も多い。渡辺衡一郎・慶応大専任講師は「日本でも、まず抗うつ薬ありきという認識を見直す時期に来た」と話す。