オーストラリア・パースのTelethon Institute for Child Health Researchやカーティン工科大学などの研究者らは、1989年から1991年に西オーストラリア州で生まれた男女1038人のデータを分析し、乳児期の母乳栄養が、10歳の時点での学力テストの成績に有意に影響することを明らかにしました。論文はPediatrics誌に掲載されています。
調査に使われたデータは西オーストラリア州で2900人の男女の健康や学力などを胎児期の18週目から追跡調査した「Western Australian Pregnancy Cohort (Raine) Study」で、出生した2868人のうち10歳の時点での標準学力テストの算数・読み・書き・スペリングのスコアが記録されている1038人分のデータを分析したとのこと。性別・家族の収入・母体要因・幼児期の家庭での読み聞かせなど学力に影響する母乳以外の要素について補正した線形モデルで、母乳を主栄養源とした期間と10歳の時点での学力との関係を調べました。
その結果、6ヶ月以上母乳で育った男児は、母乳で育った期間が6ヶ月未満の男児と比べ、10歳になったときの学力が算数・読み・書き・スペリングの4つの項目すべてで高い傾向が明らかになりました。女児の場合はこの傾向は学力テストの4つの要素のうち「読み」の能力のみであらわれたとのこと。
Telethon Institute for Child Health Researchの准教授で論文の著者の1人であるWendy Oddy博士は、母乳が学力に影響する理由はいくつか考えられるとして、「母乳には各種長鎖脂肪酸など、脳の発達に必要不可欠な栄養素が含まれています。また、発達期において男児は女児に比べ脆弱(ぜいじゃく)なため、母乳に含まれる女性ホルモンエストラジオールの神経保護作用の恩恵を、男児はより強く受けると考えられます」と語っています。
また、Oddy博士はこれまでに多数の研究で母乳栄養が母親と乳児のつながりを強くし、間接的に認知能力の発達を助けると示唆されていると述べたうえで、「男児の方が女児と比べ、認知能力と言語能力の発達において母親とのかかわりに頼る部分が大きいこともわかっています」と付け加えています。
Telethon Institute for Child Health ResearchのFiona Stanley教授は、「今回の調査結果は、母親にとって授乳しやすい社会環境作りの重要性を示し、生後6カ月以降も授乳することが標準だと認識される必要があることを示しています。しかし、母乳以外にも子どもの学力をブーストする方法は多数あるので、さまざまな理由により授乳しない女性も心配する必要はありません」と語っています。
今回の研究で母乳で育った期間の違いのみによる学力の差をはかるために補正された要素(家計の収入など)の中で、10歳児の学力への影響が突出して大きかったのは「読み聞かせ」だったとのこと。授乳期間と学力には有意な相関があることわかった一方で、両親による幼児期の「読み聞かせ」時間と学力との相関の方がはるかに強かったそうです。