筑波大学は4月20日、精子が雌生殖器内で受ける浸透圧的ストレスに対する耐性を獲得するメカニズムの存在を明らかにしたと発表した。この研究は、同大生命環境系/つくば機能植物イノベーション研究センターの浅野敦之助教の研究グループが、コーネル大学のTravis教授およびStipanuk教授との共同研究により行ったもの。研究成果は、「FEBS Journal」でオンライン公開されている。
精巣において形態的分化を終えた精子は、精巣上体管を通過しながらさまざまな機能性成分を取り込んだり、機能を終えた分子を放出したりすることにより、受精機能を獲得する(精巣上体成熟)。タウリンは、精巣上体管内腔液に豊富に存在しており、一般的に細胞内浸透圧調整、抗酸化作用、細胞膜安定化などさまざまな機能を有していることが知られている。精子においても、タウリンには精機能性改善効果があることが知られていたものの、その分子メカニズムは不明だった。
Stipanuk教授の研究グループは、タウリン合成を制御しているシステインジオキシゲナーゼ(CDO)欠損マウスの雄が原因不明の不妊となることをこれまでに報告。今回の研究では、このノックアウトマウスを使い、CDOの生殖系器官における発現と機能に加え、雄の不妊を引き起こす分子メカニズムの同定を試みた。
その結果、CDOは精巣上体領域において豊富に発現してタウリン合成をつかさどり、精子は精巣上体管内腔液からタウリンを吸収することで、雌の生殖器道に侵入した際の浸透圧的ストレスに対する耐性を獲得することが判明したという。
今回の研究により、精子の受精能力獲得に関わる精巣上体成熟のメカニズムの一端が明らかになると共に、精子のタウリン不足が不妊を引き起こすことが初めて示された。今後、ヒト不妊症における原因不明の受精障害とタウリンとの関係が明らかとなれば、精子タウリンに着目した新たな受精機能検査法や不妊治療法の開発への展開が考えられる。研究グループは「精子に起因する受精障害の誘起メカニズムの解明にも繋がることが期待される」と述べている。