精子をiPSから作り、健常なマウス初の誕生

 様々な細胞に変化できるマウスのiPS細胞(新型万能細胞)から精子を作り、健常なマウスを誕生させることに、京都大の斎藤通紀(みちのり)教授らの研究グループが成功した。

 iPS細胞から受精可能な生殖細胞ができるのは初めて。もう一つの万能細胞であるES細胞(胚性幹細胞)でも成功しており、不妊症の原因解明や治療法開発への応用が期待される。5日の米科学誌セル電子版で発表する。

 斎藤教授らは、雄のマウスのiPS細胞を特殊な条件で培養し、将来は全身に育つ「胚体外胚葉」という細胞を作製。体内で精子が作られる時に働くたんぱく質を加えたところ、精子や卵子の元になる「始原生殖細胞」が大量にできた。

 この細胞の塊を、精子を作れないマウスの精巣に移植すると、8〜10週間で成熟した精子ができた。通常の卵子と体外受精させ、代理母のマウスに移植したところ、3〜4割で子供が生まれた。ES細胞の精子から生まれたマウスでは、成長後に通常のマウスと交配させると、孫にあたるマウスも生まれた。iPS細胞でも同様の結果が得られるとみている。

イルカの優れた治癒力

 イルカの、感染に対する抵抗力やサメによる咬傷からの迅速な治癒力が、ヒトの創傷治療に新たな洞察をもたらす可能性が新しい研究で示唆された。

 医学誌「Journal of Investigative Dermatology(研究皮膚科学)」7月21日号に掲載された論文で、米ジョージタウン大学メディカルセンター(ワシントンD.C.)非常勤教授のMichael Zasloff氏は、「イルカの治癒過程に関する報告はまだほとんどなく確認されていない。イルカはなぜ、サメによる咬傷で出血死に至らないのか。なぜ激痛に苦しまないのか。重度の損傷による感染が生じないのはなぜか。ヒトならば同様の損傷は致命的になる」と述べている。

 これらの疑問を解決するため、同氏は世界各地のイルカ調教師および海洋生物学者にインタビューを行い、入手可能な研究をレビューした。その結果、同氏は、イルカの感染に対する耐性がその脂肪層と関係する可能性があると結論付けた。イルカの脂肪層には天然の有機ハロゲン化合物(organohalogen compound)が含まれ、抗生物質のように作用し、抗菌特性を持つという。同氏は以前に、カエルと小型のサメの皮膚から抗菌化合物を同定している。

 Zasloff氏は「イルカは自身の抗菌化合物を蓄え、損傷発生時にそれを放出する可能性が最も高い。また、身体の元の形状を回復させる方法で治癒する。大きな裂傷を正常に近い外観に修復するには、新たに形成された組織を既存の脂肪細胞、コラーゲン、弾性線維に結合させる能力を必要とする。イルカの治癒は、哺乳類の胎児の子宮内での治癒方法と似ている」という。

 同氏はさらに、「独自の潜水メカニズムが血流を抑え、治癒を促進する可能性がある。また、無痛覚は確実に生存するための順応である。今回の研究がヒトに恩恵をもたらす研究を促すことを願っている。動物の創傷治癒に新規の抗菌薬や有望な鎮痛化合物が見つかると考えている」と述べている。