休眠状態の卵胞を目覚めさせ女性の妊孕(よう)性を向上

 休眠状態にある卵胞を目覚めさせる方法が解明され、女性が生涯に生殖に利用できる卵子の数を増加できる可能性が出てきたという。マウスではこの技術によって生存した仔を得ることに成功しており、ヒトでも成熟した卵子を作り出すことに成功しているが、倫理上の懸念からその卵子の受精は行われていない。

 この処置がヒトでも成功するとすれば、卵子の数を増やすことにより、高齢女性や不妊女性の妊娠率を大幅に向上させる可能性があり、米マイアミ大学ミラー医学部のGeorge Attia 博士は「大いに期待できる」との考えを示している。研究の筆頭著者である米スタンフォード大学(カリフォルニア州)医学部のJing Li氏は「高齢女性や癌(がん)治療に備えて卵巣を冷凍保存した女性、早期卵巣不全の女性などにとって、われわれの研究が有益なものとなることを期待している」と述べている。

 ヒトの卵巣には本来それぞれ約40万個の卵胞があるが、1カ月に活性化されるのはわずか1,000個であり、残りは休眠状態にあるという。閉経時までに残っている卵胞は1,000個未満である。一部の卵胞が休眠したままである理由は明らかにされていないが、これまでの研究から遺伝子PTENおよび PI3Kの関与が示されている。

 米国科学アカデミー発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」オンライン版に5月17日掲載された今回の研究では、スタンフォード大学のほか、日本および中国の研究者らが PTENおよびPI3K蛋白(たんぱく)を操作して新生仔マウスの卵胞を活性化させた。卵胞からは成熟した卵子が得られ、これを受精させて代理母マウスに移植したところ、健康な仔が20匹得られ、これらの仔も生殖能力を有していた。

 癌患者から摘出した卵巣組織を用いた研究では、PTNE遺伝子を阻害することにより成熟した卵子を作製することに成功したが、この実験はそれ以上進められていない。この知見はヒト以外の霊長類で再現される必要があると、研究著者らは述べている。

 この方法は、絶滅危惧種や経済的に重要な動物にも有用となる可能性があるほか、得られる余剰の卵子が治療用のES細胞の供給源となる可能性もあると、研究グループは述べている。

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