幹細胞を用いて成体マウスの卵巣で卵子を形成

 ヒトを含め哺乳類の雌は、生まれつき限られた数の卵子(卵母細胞)しかもたないと長い間考えられていたが、雌の成体の卵巣で新しい卵子が形成され、子孫をつくることができる可能性が中国の研究で示された。研究を行った上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University)のJi Wu氏によると、この知見が卵巣不全の発症を遅らせる治療や不妊治療につながる可能性もあるという。

 これまで、ほとんどの哺乳類は出生時には卵母細胞を作り出す能力を失っていると考えられてきたが、最近、幼若マウスおよび成体マウスの卵巣内で活発に分裂する生殖細胞が見つかったことから、この考え方に疑問が持たれるようになった。しかし、出生後の哺乳類の卵巣に雌性生殖系列幹細胞(FGSC)が存在するかどうかについては、専門家の間で見解が一致していなかった。

 今回の研究で、中国のチームは成体マウスおよび5日齢マウスからFGSCを単離した。このFGSCは、継代培養を重ねた後でも増殖可能な新しいFGSC 細胞株を作り出すことができたという。あらかじめ化学療法によって妊孕(よう)性を失わせた雌マウスにこのFGSCを移植すると、(新しい卵母細胞を作ることによって)妊孕性を回復し、後に正常な仔を出産した。

 医学誌「Nature Cell Biology(細胞生物学)」オンライン版に4月12日掲載されたこの知見について、米国の専門家らは「非常に興味深い」とする一方、ヒトの成人女性に応用して、新しい卵母細胞を形成させることができるのかどうかについては、まだずっと先の段階のことであり、何ともいえないと述べている。それでも、今後の幹細胞研究やその他の研究を進めていく上で、この知見が密接に関わってくるはずだという。

 幹細胞に関する別のニュースが、科学誌「Nature Biotechnology(バイオテクノロジー)」オンライン版に4月12日掲載された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究グループが、遺伝子の発現を制御する遺伝物質であるマイクロRNA(mi RNA)を用いて成体マウスの細胞を胚細胞に戻すことに成功したという。この新しい胚細胞は、幹細胞と同じようにさまざまな種類の組織になる能力をもつ。同様な変化を起こすのに現在利用されている方法は、レトロウイルス(細胞の癌 [がん] 化に関連するウイルス)を用いるため癌などのリスクがあるが、マイクロRNAを用いる今回の方法であれば安全性を高めることができると、研究グループは述べている。

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