若者を中心に流行が続く性感染症。オーラルセックスや妊娠中のセックスが普通になり、性器だけではなくのどや目への感染が問題になっている。感染源にならないためにも、コンドームを活用し完治をしっかり確認したい。
「十代後半から二十代前半の女性では、ほぼ十五人に一人がクラミジアに感染している。今では“国民病”の一つ」と警鐘を鳴らすのは、昨年、厚生労働省の研究班で性感染症の実態調査に当たった愛知医科大感染制御部の三鴨廣繁教授。感染しても自覚症状がないことが多いが、放置すれば不妊の原因になる上、HIV(エイズウイルス)に感染する確率が約五倍に高まる。
最近、クラミジアの咽頭(いんとう)感染(のどへの感染)の症例が多く見つかっている。三鴨教授らが二〇〇四年に行った調査では、子宮がん検診を受けた性風俗産業従事者ではない女性二百二十九人のうち、子宮頸(けい)管に感染していた人は7・9%。咽頭感染は5・2%で、子宮頸管の感染者のうち咽頭感染者は半数を超えた。
〇二年に岐阜大の研究グループが行った性風俗産業従事者ではない女性百二十二人へのアンケートでは、性行為時にオーラルセックスを「必ず行う」「50%以上の割合で行う」の回答が76%を占めた。年齢が低いほど、この回答は増え、十代では87%に達した。
愛知医科大病院産婦人科の野口靖之医師は「若者の間ではオーラルセックスは妊娠の心配がなく、膣性交に比べて罪悪感の少ない性行為として気軽に行われている。その多くは、オーラルセックスで性感染症はうつらないと誤解をしている」と話す。
オーラルセックスによりクラミジアがのどに感染すると首のリンパ節が腫れたり、咽頭が赤くなったりするが、ほとんど無症状だ。だが、のどの感染を放置すれば再びパートナーの性器に感染し、膣性交により自分の性器が感染する、いわゆる“ピンポン感染”にもなりかねない。
クラミジアの咽頭感染の検査は今年から、保険適用が始まった。「心配ならば産婦人科、泌尿器科、耳鼻科で検査を」と野口医師。
咽頭感染は、性器の感染よりも除菌しにくい。現在の主な治療薬で、一回の服用で除菌できるアジスロマイシンの場合、咽頭感染では約15%の失敗例が出る。ほかに100%除菌できる薬の服用方法もあり、オーラルセックスをしたなら咽頭の感染を確かめてから治療法を選んだ方が確実だ。
一方、目にクラミジア感染症患者の精液が入ることで発症するクラミジア封入体結膜炎も増えている。
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クラミジア感染症は三十週前後の妊婦健診で検査することが多い。三鴨教授は「今は妊娠中の性交渉も珍しくない。分娩(ぶんべん)時の産道感染を防ぐため、分娩直前にも検査を行う必要がある」と話す。初期の感染は流・早産に影響があるため、複数回の検査が望ましい。妊婦が陽性だと、パートナーも陽性の場合が多いので、両者ともに治療、完治を確認することが必要だ。
日本性感染症学会の元理事長の熊本悦明札幌医科大名誉教授は、性感染症罹患(りかん)率の推移を示す。「今や誰が感染していてもおかしくない。コンドームを使って予防を」と話している。