心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の患者に、魚油に多く含まれる脂肪酸であるEPAやDHAをサプリメントとして投与しても、心血管疾患の再発予防にならないという臨床試験の総合評価が、内科学アーカイブスに5月公表された。
著者らは医学文献のデータベースを検索して、心血管疾患の患者にEPAやDHAのサプリメントを投与した臨床試験14件を選び出した。研究はインドの1件を除いて欧米で行われていた。
対象者の合計は20,485人で、10,226人にはEPAやDHAのサプリメントが投与され、10,259人にはサプリメントと見かけは同じだが、EPAやDHAの含まれないプラセボ(偽薬)が投与された。
14件の結果を集計すると、プラセボ投与群と比べて、サプリメント投与群の心血管疾患の発症率は0.99倍で誤差範囲の結果だった。また、全死因死亡、心筋梗塞、心臓突然死、うっ血性心不全、脳梗塞などの減少も見られなかった。
著者らは今回の総合評価に、「EPAやDHAの投与で心筋梗塞などが減少した」とするイタリア(11,324人)と日本(18,645人)の大規模な臨床試験を加えなかった。
その理由として、この2件の研究ではいずれもプラセボを使っておらず、またプラセボを飲んでいない(EPAやDHAも飲んでいない)対象者に医師が積極的に検査を行って心疾患などを診断してしまっていることなどから、EPAやDHAの効果を過大評価している可能性があったことを挙げている。
当初の14件の研究にこの2件を加えて総合評価をやり直しても、比較群に対するサプリメント投与群の心血管疾患の発症率は0.95倍となり、誤差範囲の低下に留まった。
研究に対する論評によると、心血管疾患の患者ではなく、健康な集団の追跡調査では、魚類を多く食べると心血管疾患による死亡リスクが低下することが一致して示されている。
そのため、EPAやDHAのサプリメントの効用についてはまだ結論が出ていないが、健康な集団でも、心血管疾患の患者でも、魚類を多く食べることが勧められるとしている。
論文の著者によると、EPAやDHAは、炎症、不整脈、動脈硬化を防ぐことを示した動物実験などの報告があるという。
2010年報告までの最新の論文を含めて、臨床試験の総合評価を行った点に、今回の研究の意義がある。ただし研究の大半は魚類摂取の少ない欧米からの報告のため、魚類摂取の多い日本で、プラセボを使った臨床試験が今後必要だろう。