治療のための薬で健康被害を受けた入院患者が5人に1人に上ることが東京、京都、福岡の病院を対象にした調査でわかった。軽微な副作用から命にかかわる深刻な例まで計千件以上あり、重い被害が4割近かった。京都大などの研究グループによると、調査担当者を派遣し、病院の協力を得てカルテや検査データなどを綿密にチェックし、薬が関係した健康被害を拾い出す研究は国内初という。
3病院は入院ベッドが500床以上。大学病院ではないが、多くの診療科があり各地で中核的な役割を担う。研究グループの森本剛・京都大大学院講師(臨床疫学)らは他の医療機関でも同様の問題がある可能性があるとみて、被害の未然防止や重症化防止の仕組みづくりを訴えている。
研究グループは2004年1〜6月、産婦人科と小児科を除く3病院の全診療科で15歳以上の3459人について調べた。
薬の種類や量を間違えて症状が悪化したような明らかな間違いを始め、通常の治療の範囲内で、鎮静薬を多量に投与された高齢者の意識レベルが低下したり、消化管出血、アレルギー反応、下痢、腎機能の低下などが起きたりした例も含め「薬剤性有害事象」として集計。投与直後だけでなく継続的に観察した。
調査結果によると、726人に1010件の有害事象があった。このうち14人(16件)が死亡し、集中治療室での治療や人工呼吸器などが必要になる「生命にかかわる」被害が46人(49件)、消化管出血や発熱、血圧低下など「重度」の被害が272人(330件)に見られた。
死亡例では、抗菌薬の使用後にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症になり、治療が間に合わなかったケースや、抗菌薬による腸炎や下痢、非ステロイド系抗炎症薬を使った後の消化管出血などがあった。
グループは、有害事象の14%、141件が医師の指示や薬剤師のチェックなどの「エラー」によるもので、他のより良い手段で経過を変えられた可能性があると判定。うち83件は「防止可能」、58件は症状の緩和や期間の短縮ができたとみる。同じ効能の複数の薬が重複投与される前に薬剤師が点検するなど、医師以外が処方内容を検討すれば防げるものがあるという。
調査担当者が最初に気づいたのが141件中46件、院内報告制度で報告されていたのは19件にとどまった。
森本講師は「薬剤性の有害事象は見逃されやすい。把握のための一定の基準を作り、担当薬剤師らが日常的に患者の症状をチェックし、速やかに医師に伝える仕組みを導入すべきだ」と話す。