有機栽培向け「植物保護液」から無登録農薬成分

 野生の植物から作った「植物保護液」として販売され、有機農業や家庭園芸などに使われていた散布用の液体から、毒性が強く国内での使用が禁止されている農薬成分が検出されていたことが分かった。この液体は全国の種苗店や農協、ホームセンターを通じて農家や個人へ売られ、有機JAS認定を受けた農産物にも散布されていたとみられる。無登録の農薬が使われた農作物が有機栽培と称して流通していた可能性があり、農林水産省は使用の実態調査を始めた。

 農薬成分が検出された植物保護液は「アグリクール」。三重県伊賀市の有限会社「三好商事」(三好一利社長)が約12年前から中国のメーカーに委託して製造。マメ科の野生植物を主原料とし、販売代理店のホームページでは「植物が本来持っている抵抗力を引き出し、強く元気にする」「有機・減農薬栽培に最適」などとしている。500?1000倍に薄めて植物や土壌に散布するという。

 農水省の農業資材審議会会長を務める千葉大大学院園芸学研究科の本山直樹教授が今年、アグリクールを分析したところ、「アバメクチン」という農薬の成分が約1600ppm検出された。複数の農業資材関連企業が検査機関に依頼した分析でも、同様の結果が得られたという。

 アバメクチンは海外で殺虫剤として使われている農薬だが、国内の登録農薬に比べて毒性が強く、農薬取締法により輸入や販売が禁止されている。本山教授は「アグリクールに含まれるアバメクチンの濃度は高くないが、登録農薬ではないため使用量や散布方法などのルールが決められておらず、使い方によっては健康に悪影響を及ぼす恐れがある」と指摘している。

 大手種苗会社は3、4年前からアグリクールを種苗店や農協など全国の数百の取引先に卸したほか、家庭向けに個人へも通信販売し、年間1000万円ほどを売り上げていた。千葉大の報告をもとに、同社が検査機関に成分分析を依頼した結果、アバメクチンが検出されたという。この会社は今年4月、アグリクールの販売を中止している。

 関東地方の農協は、06年から組合員向けに販売。組合員の約300のイチゴ農家などが使った。今年3月末、仕入れ先から販売自粛の連絡があり、使用中止を決めたという。また、朝日新聞が全国約50の有機農産物JAS認証機関に聞いたところ、少なくとも10以上の有機JAS認定農家がアグリクールを使っていたと回答した。

 無農薬栽培に取り組んで有機JAS認定の申請をしている岡山県の果樹農家は、一昨年と昨年、複数の公立小学校に給食用としてアグリクールを使用したブドウを納入した。農家の男性は「有機JASに適合する資材というふれこみを信じて使っていた」と話す。

 三好商事は「液体自体は中国の会社に、農薬など一切の化学薬品を入れないよう注文して作っている。本山教授の分析結果を知り社長が現地に行って確認したが、農薬混入はないという報告を受けた」としている。

 農水省は全国の有機JAS認証機関に対し、認定農家のアグリクールの使用状況について報告を求めている。

統合失調症:原因遺伝子の一つ、マウス実験で特定

イワシなどに含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)などの不飽和脂肪酸の体内への取り込みに関係する遺伝子が、統合失調症の原因遺伝子の一つであることを、理化学研究所や東北大などの研究チームがマウスを使った実験で特定した。不飽和脂肪酸は胎児の脳の形成過程に必要な栄養素で、妊娠中の不飽和脂肪酸の摂取が不十分だと、統合失調症発症につながる危険性があることも示唆する結果だという。

 研究チームは、音の刺激への反応が統合失調症の患者とよく似たマウスを正常なマウスと掛け合わせ、その孫世代のマウス1010匹の全遺伝情報を詳しく調べることで、発症に関係する遺伝子を絞り込んだ。

 その結果、DHAや卵などに含まれるアラキドン酸などの不飽和脂肪酸と結合し、細胞内に取り込むのを助けるたんぱく質を作る「Fabp7」という遺伝子との相関が強かった。この遺伝子を欠くマウスは、脳の神経新生が少なくなることも確認した。この遺伝子は人間にもある。

 統合失調症の発症には複数の遺伝子と環境要因が複雑に絡み合っていると考えられている。栄養も関係し、妊娠中に飢餓状態に置かれた女性から生まれた子供は、統合失調症を発病する危険性が2倍に高まることが知られているという。

 理研脳科学総合研究センターの吉川武男チームリーダーは「妊婦が適切な量の不飽和脂肪酸を食べることで、統合失調症の発症予防ができるのか研究を進めたい」と話している。

10?11月ごろ妊娠は流産率低め

 秋は妊娠に最適? 藤田保健衛生大の中沢和美教授(産婦人科)が17日までに、約2800人の妊婦のデータを追跡し、10?11月ごろに妊娠すると、流産する率が低い傾向があるのを見つけた。

 理由は分かっていない。一病院のデータだけの分析のため、一般的な傾向と言えるのかも不明だが、中沢教授は「季節的に繁殖期がはっきりした動物がいるように、人間も季節で体のリズムが変化する可能性があるのでは」と推測している。

 教授は、かつての勤務先だった横浜市の病院を89年から91年に受診した妊婦について、最終月経があった月別に3年間の平均流産率を集計した。すると、最終月経が10月と11月だった人の流産率だけがいずれも7%と低く、ほかの月は16?22%と2倍以上あった。

 また、83年からの12年間に同じ病院であった約1万1400件の出産の分布を調べたところ、前年の10?11月に妊娠した人が出産する、8?9月ごろが年間のピークの1つになっていた。

 中沢教授によると、ある種の動物では繁殖期に妊娠・出産しやすい体内環境が整えられる。例えばニホンザルの場合、秋以降に分泌されるホルモンの刺激で生殖が促されるほか、ホルモンの抗酸化作用が卵子を傷つきにくい状態に保っていることも考えられるという。

 教授は「人間にも似たようなことがあるのかはホルモン分泌などを詳しく見ないと分からないが、研究を進め、不妊治療に生かしたい」と話す。