花粉症の予防と治療について

花粉症の予防と治療について

私たちの体の中に細菌とかウイルスなど、体内にないたんぱくが入ると、抗体というものができて、細菌・ウイルスが生存増殖できないように働くメカニズムが備わっています。これを免疫といいます。
 

アレルギー反応もこの仕組みによく似ています。体の中にスギなどの花粉、つまり抗原が入ってくると、血液中のリンパ球がこの抗原に反応して、IgEと呼ばれる抗体を作ります。抗体は体の中に分布している肥満細胞の表面にくっつき、体内に入ってくる抗原と結合します。このときに肥満細胞からヒスタミンを中心とする刺激性の強い化学伝達物質が出て神経と血管を刺激します。この刺激でくしゃみや鼻水、鼻づまりが起こります。
 抗原と抗体との反応によって肥満細胞やリンパ球で作られる化学伝達物質はまた、鼻の粘膜に炎症を起こす細胞を集める作用があるため、花粉症の人はさまざまな刺激に対して、普通より過剰に反応するようになります。これを鼻粘膜過敏性といいます。



次にスギ花粉症の患者さんとその予備軍がどのくらいいるのかというと、千葉県の房総半島のある地域の住民1000人以上を対象とした調査では、患者は低年齢化の傾向で、11歳から15歳にかけて、年齢とともに増え、15歳では実に半数あまりがスギ花粉に対するIgE抗体を持ち、このうち52.9%はすでにスギ花粉症の症状が出ています。
 一方、大人では20?40歳までの年齢でIgE抗体を持っている人は66.7%に達し、うち半数以上の人に花粉症の症状が出ていることがわかりました。
 このような結果から、IgE抗体を持っている人は現在症状がなくても抗体の値が上がり、スギ花粉がたくさん飛散すれば、いつでも発症する可能性がある「花粉症予備軍」といえるのです。
 一方、この調査では50歳以上になると発症率が低下するという事実もわかりました。年をとると、体内のリンパ球がスギ花粉に反応する能力が衰えるためと考えられます。
 では、どのような人が治りやすいのかといいますと、統計では50歳以上で発症した人は治りやすく、若いときに発症した人は治りにくいという結果でした。すなわち花粉症発症の低年齢化とともに、治りづらい花粉症の患者さんが増えることになります。IgE値の低い人、男女で比較すると男性のほうが治りやすい傾向があります。
 つまり、アレルギー疾患である花粉症を治すのは一筋縄ではいかない難しいことであり、いかに上手にコントロールして快適に過ごすかということが大切になってきます。


では、具体的に花粉症にどう対処したらいいかということですが、まずは抗原である花粉をできるだけ避けることです。花粉情報などを参考に、飛散が多い時期は外出を避けたり、窓や戸を閉めます。外出する場合は眼鏡やマスクが有効です。
 花粉症用を使わずとも、普通のマスクで花粉の入ってくる量を2分の1から3分の2まで減らすことができます。コンタクトレンズの方は花粉の飛散時期には眼鏡に変えたほうがいいでしょう。外出から帰ったときは衣服をはたいたり、目を洗う、鼻をかんだり、うがいや髪を洗うなどの細かなケアが効果的です。
 


●病院での治療は、花粉の飛散が始まる前に行う「初期治療」がなにより大切です。使う薬にはたくさんの種類があり、それぞれ特徴があります。
 一番使われているのは抗ヒスタミン薬という、ヒスタミンをブロックする薬です。改良を重ねた第二世代のヒスタミン薬には鼻づまりにより効果的なものや、口渇や眠気の少ないものなどがあります。軽症の人はこれだけで十分ですが、満足できない場合は、局所ステロイド薬を使います。これは鼻の中に噴霧するタイプです。
 中等度でくしゃみや鼻水が主な人には第二世代の抗ヒスタミン薬とステロイド薬、鼻づまりが主な人にはロイコトリエン拮抗薬とステロイド薬を一緒に使います。
 非常に重症の場合はステロイド薬の内服薬を使うこともあります。しかし高血圧や胃潰瘍、結核や緑内障など重篤な副作用を起こす危険がありますので、どうしても苦しいという場合に限って短期間だけ処方します。

なお、花粉症を根本から治す方法には減感作療法、別名、免疫療法があります。花粉の抗原を薄めて注射をし、体をならしていく治療で60%くらいの人が改善します。
 しかし、2、3年という長い治療期間が必要になります。また、まれにですが副作用としてアレルギーによるショックを起こす可能性があります。
 もう一つ、鼻の手術があります。鼻の中がもともと何らかの異常があって狭くなっている場合は、この異常を手術で取り除くことによって特に鼻づまりは著明に改善します。
 どの治療を受ける場合も、一番大切なのは医師とのコミュニケーションです。現在、花粉症の薬物療法は非常に発達しておりますが、個々の患者さんにどのような薬が最も適しているかは実際に使ってみないと分からないこともあります。花粉症の症状があったならばしかるべき専門家に相談した上で、症状を具体的に述べ、その人に合った治療法を選んでもらう。それで満足できなかったならば、ありのままを話して、次の治療法を選択する。これが大変、重要なことなのです。

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