ニコチンが精液の受容体に作用し、精子自体に損傷を及ぼす。

加熱式タバコにもニコチンがたっぷり入っている。
タバコを吸うと男性の不妊症の原因になる。これは多くの研究から明らかだが、その理由はよくわかっていなかった。
そもそも精子や卵子は活性酸素や酸化ストレスに弱いが、喫煙によって活性酸素(Reactive Oxygen Species、ROS)が作られ、酸化ストレスが生じる。また、タバコの煙は抗酸化作用のある物質を減少させる。例えば、ビタミンCには抗酸化作用があるが、ビタミンCはタバコ煙による肺気腫を防ぎ、肺の機能を回復するようだ。
また、タバコ煙に含まれる物質が、ミトコンドリアのDNAを損傷し、それで活性酸素が作られるのではないかという研究もある。では、タバコに含まれるどんな物質が活性酸素を作って酸化ストレスを生じさせ、精子のDNAを傷つけるのだろうか。
タバコの煙には約3000から4000種類の化学物質が含まれ、そのうちの200種類以上が人にとって有害な物質とされている。この中には活性酸素の生成に直接関与する物質もあれば、多種多様な組み合わせによって酸化ストレスの起因につながる作用を及ぼすことも考えられる。
こうした物質の中で最近、注目を集めている物質がある。ニコチンだ。最近の研究では、ニコチンが精液の受容体に作用し、精子自体に損傷を及ぼすのではないかということがわかってきた。
加熱式タバコを含むタバコを吸うと、気管から肺へ入ったタバコ煙が血液に混ざって数秒で体中に運ばれる。ニコチンは数時間で代謝されてコチニンなどに変わるが、その間に脳を含む体内にニコチンが作用し続けることになる。
タバコを吸うと、ゲノムの塩基配列の中のCpGアイランド(シトシン=Cの次にグアニン=Gの2塩基が現れる配列)という部分に炭素原子がくっつく後天的なDNAのメチル化が起き、がんになりやすくなることが知られている。DNAのメチル化を起こす物質の一つが、タバコに含まれるニコチンだ。
また、ニコチンは他にも後天的なDNAの変化を引き起こす。ニコチンによる悪影響は、特に妊産婦が喫煙したり受動喫煙にさらされるなどした場合の新生児で多く研究がなされている。逆にいえば、タバコを止めると後天的なDNAの変化が減少し、がんになりにくくなる。
タバコに含まれるニコチンが後天的にDNAを変化させることは、男性の精子でも起きている。加熱式タバコにもニコチンは含まれている。不妊症のリスクを避けるためにも、タバコを吸うのを止めたほうがいい。