無償で精子ドナー、米当局が停止求めて警告

子どもが欲しいができないカップルに、無償で自分の精子を提供している米カリフォルニア(California)州在住の男性が、米規制当局から聴取に応じるよう求められている。

「不妊に悩む夫婦と、女性同士の同性カップル」に精子を無償提供しているトレント・アーセノート(Trent Arsenault)さん(36)が、米食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)の調査対象となったのは2009年。翌年FDAはアーセノートさんに提供停止を求める警告状を発行したが、その後も提供は続けられ、これまでに計14人の子どもが誕生し、現在も何人かが胎内にいる状態だという。

 聴取の日程についてはまだ、何も聞いていないというアーセノートさんは「子どものいないカップルからは山のようにメールが来ているので、(提供を)続けたい。みんな、精子バンクは高すぎると言っている」と語った。

 アーセノートさんは自分のウェブサイトで「髪はブロンド、目はブラウン。シリコンバレー(Silicon Valley)で働く技術者」「ルーツは半分がドイツ、アイルランドとフランス4分の1ずつ。8歳になるまでに耳で覚えてピアノを弾くようになり、スペイン語と英語を話し、米海軍兵学校(US Naval Academy)でエンジニアリングを学んだ」と自己紹介している。サイトからリンクをたどると、提供者としての免責事項と子どもとの面会権を放棄する旨が書かれている。

■コスト高い登録バンク、無償提供には感染症の危険も

 FDAではこの件については調査中としてコメントを控えているが、精子提供者は性感染症について、リスク要因も含めた審査を受けなければいけないと規制している。

 アーセノートさんのサイトにはHIV、クラミジア、淋病、A・B・C型肝炎、ヘルペスに陰性だったことを示す検査結果が掲載されているが、その精子サンプルについては、「伝染性物質の検査は行われていません。注意:被提供者に感染症リスクがあることをアドバイスしてください」との注記が記されている。

 バージニア州の精子バンク、フェアファックス・クライオバンク(Fairfax Cryobank)の広報担当トリナ・レオナード(Trina Leonard)氏によると、無償の精子提供を利用する人は数百ドルを節約しているかもしれないが、非常に高いリスクを負っていると警告する。「信頼できる精子バンクでは非常に多くの試験や予防策を行っている。(それに比べ)無償の精子提供を利用するのは、出会ったばかりの相手と子どもを作るとか、初めてデートした相手と無防備なセックスをするようなもの。クレイジーだ」

 同氏によると、無償で精子を提供しているドナーのうち、公式な精子バンクの審査に通るのはわずか1〜2%しかいないという。

 登録された精子バンクの利用には一般的に1回200〜675ドル(約1万5000〜5万2000円)かかる。フェアファックス・クライオバンクの場合、審査に通るドナーは希望者の1〜2%のみと厳選されており、ドナー側には1回の提供につき通常100〜150ドル(約7600〜1万1500円)の報酬が支払われているという。

 一方でアーセノートさんのサイトには、精子を無償提供している動機を書いた十か条がある。その中には「コミュニティに対するボランティア精神」、「女性に対する敬意、神に対する信仰、そして商業的な精子バンクで儲けようとする強力な企業たちへの抵抗」などが挙げられている。

「幼なじみの1人は、両親が何年間も子どもを作ろうと頑張った末にできた1人っ子だった。子どもを持とうとして奮闘する家族たちをトレントは直接、見聞きして知っている。その助けになることができればと願っている」とアーセノートさんは記している。

男の不妊症、手術で精巣から精子採取

精液検査で精子が全く見つからない場合、無精子症と診断される。

 さいたま市の会社員男性Bさん(38)は2009年秋、婦人科クリニックで受けた精液検査で、無精子症と告知された。自分で情報を集め、独協医大越谷病院(埼玉県越谷市)泌尿器科教授で、男性不妊が専門の岡田弘さんを受診した。

 無精子症の原因には、精巣で精子が作られないか量がわずかしかないケースと、精巣の働きは正常だが精液の通り道の精管に問題があるケースがある。

 患者の約3割は、精管に問題があるタイプ(閉塞性)だ。Bさんは、触診やホルモンの血液検査などから、精巣では精子が作られているが、精管が生まれつきないことがわかった。

 岡田さんは、Bさんの陰のうにメスを入れ精巣の組織を一部取る手術を行い、そこから精子を採取。妻(37)の卵子と体外で顕微鏡を見ながら受精させた後に子宮に戻す顕微授精を行い、長男(1)を授かった。

 Bさんは「無精子症とわかり、精神的にがくんと来たけれど、原因がわかったことを前向きに受け止め、夫婦で迷うことなく治療に取り組んだ」と話す。

 精巣は正常だが精液の通り道に問題があるBさんのようなタイプは、精巣からほぼ確実に精子を採取でき、不妊治療につなげることができる。これに対し、無精子症患者の約7割は、精巣の働きそのものに問題があるタイプ(非閉塞性)で、治療が難しい。

 顕微鏡を使った手術で精巣の内部を見て、精子がいないかどうかを調べ、見つかれば採取する。精子回収率は非閉塞性の場合、約4割だ。年齢が若い(35歳未満)ほど回収率が良いとの研究もある。

 精子を採取する手術は、精巣が萎縮し手術後のホルモン分泌に支障が出る危険性を伴う。岡田さんは「極力1回で、必要な組織だけを的確に採取する技術が必要だ」と話す。

 2泊3日の入院で、全身麻酔で行う。局所麻酔で、日帰りで行う施設もある。

 精子を採取する手術には保険がきかず、同病院の場合、事前の検査も含め約50万円かかる。不妊治療の公的助成の対象にはなっていないため、不妊治療の一環として対象に含めるよう求める声もある。

 手術で精子が採取できなかった患者には、ホルモン剤で精巣の働きの改善を目指す試みも同病院や山口大病院で行われている。